2018年6月26日

冨安由真展「くりかえしみるゆめ」へ!お化け屋敷に限りなく近いアート作品

銀座の資生堂ギャラリーへ行ってきました!
開催中の展示は「第12回shiseido art egg」。
新進アーティストの活動を応援するという公募展です。

今ここで開催中なのが、「冨安由真展 くりかえしみるゆめ」。
これがとても興味深かった!
内容は“不可思議な空間を歩いてまわる”というインスタレーション作品で、お化け屋敷に限りなく近いアート作品といった印象。

この作品を紹介しながら、同時に「アート(芸術)とお化け屋敷(アトラクション)の線引き」について考えてみたいと思います。

【※以下、一部作品のネタバレに繋がる可能性があります。ご注意ください】


展示内容
まず今回の展示について。
東京銀座資生堂ビルの地下1階に会場はあります。
階段で地下へ。
薄暗い階段を下って行くと、華やかな銀座とは隔離されたどこか別の異空間に迷い込んだような気さえしていきます。
吹き抜けからは中の様子が見える。
一部分を俯瞰できる吹き抜け。
それを過ぎると入口にたどり着きます。
真っ白な壁に木のドアが1枚。ここが入口兼出口。
シンプルな入口にはスタッフさんがおり、注意事項の説明があります。
ドアノブ以外は触らないこと、ドアは開けたら閉めて進むこと……。
受付の上にあった注意事項POP。
そして、前のグループと間隔を開けて(少し待たされて)いよいよ入場です。
中は住宅のような空間が広がっています。
いくつも部屋や廊下があるのですが、そのうちいくつかだけご紹介します。
食器がセットされたダイニング。
服らしきものが乱雑に掛けられたクローゼット。
テーブルの上には本と土の入ったコーヒーカップ。
シャンデリアが落ちている謎の部屋。
空間の構成としては、いくつもの部屋や廊下が回遊できるように繋がっています。
中には「同じ部屋だけれど様子が少し異なっている」空間も。

仕掛けとして、照明が明滅したり、窓を外からノックされたり、電話が鳴ったり、ドアが勝手に開いたり閉まったり、テレビが急についたり消えたりします。
これらの仕掛けは常に作動しているわけではなく、不意に来ます。
どこかポルターガイストっぽい。

全体的に、シンプルながらもどこか美しさのある内装に、非現実を強調する仕掛け。
その中を歩いて進む作品です。
お化け屋敷に限りなく近いアート作品
冒頭でも書きましたが、僕がこの作品を体験して真っ先に感じたのは「お化け屋敷に限りなく近いアート作品」という印象でした。
「くりかえしみるゆめ」というタイトルから僕が連想するのは「悪夢」。
子どもの頃にくり返しみたような、よく分からない夢の世界。
そう考えて歩いてみると、いろいろ納得できるような気がしました。
壁に掛かっている不気味な絵画、驚かされるような仕掛け、回遊する空間。
すべてがタイトルを表しているように思えます。
少なくともここは現実世界ではない。そういった感覚です。

ここまで読んでくれた方はふと思ったことがあるのではないでしょうか。
どうでしょうか?
お化け屋敷とかなり共通点が多くないですか!?

最近よく考えることがあります。
それは、「アート(芸術)とお化け屋敷(アトラクション)の線引きってどこなんだろうか」ということ。

最近はインタラクティブとかインスタレーションなんかがピックアップされていて、これらの要素はアートとアトラクションの境界線をさらに曖昧なものにしています。
(元々アトラクションという言葉は“引きつけるもの”という意味があるので、アートも一種のアトラクションなのかもしれませんが)

僕自身お化け屋敷を作る仕事に携わっていますが、一般的にお化け屋敷が芸術として見られることってほとんど無いと思うのです。
では、例えば演劇はどうでしょうか?
「演劇は芸術」と答える人は一定数いるでしょうし、僕も演劇は芸術の側面を確実に持っていると思います。
僕は「お化け屋敷はきちんと作れば演劇に近くなる」と思っています。
お化け屋敷で近年主流となっているスタイルは、「美術や照明、舞台装置の中で、物語を体験する」というもの。
これはお化け屋敷と演劇の共通部分でもあります。
例えば五味弘文さん(オフィスバーン)が作るお化け屋敷なんかは、ストーリーがしっかりしており、舞台美術や照明も美しくて、芸術性があるように思う。

では、なぜお化け屋敷は一般的に芸術として見られないのか?
その線引きはどこにあるのか?
それは世間の認識にあると思います。
お化け屋敷は演劇よりも娯楽としての側面が強いのです。
そうなってしまう原因はいくつかあります。
お化け屋敷は子どもだましという固定観念、内容のクオリティ等、いろいろ考えられます。

お化け屋敷は娯楽以上の可能性を秘めていると僕は考えます。
現代日本において、死とか非現実とかを見つめる機会は確実に減ってきている。
でも、死とか非日常というものは案外近くにあるのです。
今日の非日常が、明日には非日常ではなくなっているかもしれない。
お化け屋敷は、そういったものを見つめ直す機会にもなりうると思います。
「現実と非現実が曖昧になる経験というのは、意外と日常のなかに溢れているもの。それに気づく機会になればいい。」 「心霊」を現代美術に組み込む。冨安由真インタビュー
今回の展示の作者 冨安由真さんは美術手帖のインタビューでそう述べています。
これにはとても共感するとともに、そういった意味でも今回の展示はとても良いものであったと思ったのでした。

別にお化け屋敷を芸術にしたいと言いたいわけではありません。
でも、「ただ驚かされてビックリ!」ではなく、その先へ。
“体験したゲストに何かを与えられるアトラクション”、それが今後の社会におけるお化け屋敷のあり方であってほしい。
アトラクションである以上、「楽しい!」というのは大事なのですが、それだけで終わらないアトラクションを作りたい。
改めてそう考えさせてくれた展示でした。

展示データ
『第12回shiseido art egg 冨安由真展「くりかえしみるゆめ Obsessed With Dreams」』
【開催期間】2018年6月8日(金)~7月1日(日) ※月曜日は休館
【開催時間】平日 11:00~19:00 / 日曜・祝祭日 11:00~18:00
【開催場所】銀座 資生堂ギャラリー(東京都中央区銀座8-8-3 地下1階)
【料金】無料
【所要時間】5分~∞
【タイプ】 ウォークスルー
【関連サイト(外部リンク)】
・公式サイト
・美術手帖
『「心霊」を現代美術に組み込む。「第12回shiseido art egg」冨安由真インタビュー』

0 件のコメント:

コメントを投稿